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ISMSリスクアセスメントのやり方|情報資産の洗い出しから適用宣言書まで6ステップ
ISMSのリスクアセスメントは、情報資産を並べて危なそうなものに印を付ける作業ではありません。ISO/IEC 27001:2022 は、箇条 6.1.2 でリスクアセスメントのプロセスを定めること、6.1.3 でリスク対応のプロセスと適用宣言書(SoA)を作ること、箇条 8.2 と 8.3 でそれらを計画した間隔で実施し結果を文書化した情報として保持することを求めています。実務の順序は、①リスク基準の定義 ②情報資産の洗い出し ③脅威と脆弱性の特定 ④リスク分析 ⑤リスク評価 ⑥リスク対応の6ステップです。先に基準を決めてから資産を並べる、という順番さえ守れば、あとは埋めていく作業になります。
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リスクアセスメントはISO/IEC 27001のどこに位置づくか
リスクアセスメントは、ISMSの中で「何を守るか」と「どの管理策を入れるか」をつなぐ唯一の橋です。管理策を先に決めて理由を後付けすると、審査で根拠を問われます。規格が求めているのは次の4点です。
- 箇条 6.1.2(情報セキュリティリスクアセスメント) — リスク受容基準と実施基準を定め、一貫性があり比較可能で妥当な結果を出せるプロセスにすること。リスクの特定・分析・評価と、リスク所有者の特定を含みます。
- 箇条 6.1.3(情報セキュリティリスク対応) — 対応の選択肢を選び、必要な管理策を決め、附属書Aと照合して見落としを確認し、適用宣言書(SoA) を作成すること。リスク対応計画と残留リスクは、リスク所有者の承認が必要です。
- 箇条 8.2 / 8.3 — 計画した間隔で、また重大な変化があった場合にアセスメントを実施し、対応計画を実行して、結果を文書化した情報として保持すること。
- 附属書A — 93の管理策の参照リスト。ここから選ぶのではなく、決めた管理策の抜け漏れを照合する一覧として使います。
認証取得までの全体の流れはISO27001認証取得の進め方で扱っています。着手は適用範囲の決定の直後、管理策の実装より前が定石です。
ステップ1: リスク基準(受容基準・評価基準)を先に定義する
最初に決めるのは資産ではなく基準です。基準がないまま資産を並べ始めると担当者ごとに評価がぶれ、後からすべて付け直すことになります。決めるのは、発生可能性の尺度、影響度の尺度、スコアの計算方法、リスク受容基準の4つ。中小規模の組織なら3段階で十分に運用できます。
| 発生可能性 / 影響度 | 軽微(1) | 中程度(2) | 重大(3) |
|---|---|---|---|
| 高(3)/年数回以上 | 3:中リスク | 6:高リスク | 9:最高リスク |
| 中(2)/数年に1回 | 2:低リスク | 4:中リスク | 6:高リスク |
| 低(1)/めったに起きない | 1:低リスク | 2:低リスク | 3:中リスク |
影響度は、機密性・完全性・可用性(CIA)が損なわれたときの事業影響で測ります。「顧客データの外部流出は重大(3)」のような判断例を基準書に併記すると評価がぶれません。リスク受容基準も「スコア3以下は受容、4以上は対応を検討」のように数値で明文化します。
ステップ2: 情報資産を洗い出して資産台帳を作る
次に、適用範囲の中にある情報資産を洗い出します。対象はデータだけでなく、それを保持・処理する仕組みや、扱う人・場所も含みます。台帳には最低限、次の項目を持たせます。
| 項目 | 内容 | 記入例 |
|---|---|---|
| 資産名 | 識別できる名称。曖昧な総称にしない | 顧客管理SaaS(CRM)の顧客マスタ |
| 資産分類 | 情報/ソフトウェア/物理/サービス/人的の区分 | 情報 |
| 資産所有者 | 管理責任を持つ役割。個人名より役割名 | 営業部長 |
| 保管場所・媒体 | 所在。クラウドはサービス名とリージョンまで | クラウド(SaaS事業者A・国内リージョン) |
| 重要度(C・I・A) | 機密性・完全性・可用性を3段階で評価 | C:3 / I:3 / A:2 |
| 取扱区分 | 機密/社外秘/公開などの分類ラベル | 機密 |
粒度が分かれ目です。ファイル1本ずつ数えると数千件になって運用できず、「社内システム」とまとめると粗すぎて管理策に落とせません。目安は業務システム単位・データベース単位・共有フォルダ単位で、〜100名規模なら50〜150件程度です。資産台帳は認証で求められる文書でもあり、ISMSで必要な文書一覧と合わせて整理すると効率的です。
ステップ3: 脅威と脆弱性を特定する(資産ベースと事象ベース)
リスクの特定には大きく2つのアプローチがあり、ISO/IEC 27001:2022 はどちらも強制しません。実務では併用が現実的です。
- 資産ベースアプローチ — 資産ごとに「脅威(何が起こりうるか)」と「脆弱性(なぜ起こりうるか)」を組み合わせます。例: 顧客マスタ × 権限設定の誤り × 退職者アカウントの残存 → 不正閲覧。網羅性が高い反面、件数が膨らみやすいのが弱点です。
- 事象ベース(シナリオベース)アプローチ — 「ランサムウェアで基幹システムが停止する」のように、起こりうる事象から出発します。件数を抑えられ経営層に説明しやすい反面、抜け漏れの確認に別途チェックリストが要ります。
- 併用の型 — 資産台帳で網羅性を担保しつつ、影響の大きい事象(サプライチェーン、内部不正、災害、クラウド事業者の障害)をシナリオとして別立てで追加します。
このとき、各リスクにリスク所有者を必ず割り当てます。規格が求めているのは資産の所有者ではなくリスクの所有者で、対応方針を決め残留リスクを承認する役割です。実務上は部門長クラスです。
ステップ4・5: リスク分析と評価で優先順位を決める
ステップ1で決めた尺度を使い、各リスクに発生可能性と影響度を付けてスコアを算出します。分析では、既存の管理策が効いている状態(現状リスク)を評価するのが原則です。何も対策していない前提で評価すると、全件が最高リスクになって優先順位が付きません。
評価では、スコアを受容基準と突き合わせて対応が必要なリスクを選びます。同じスコアが並んだときは、法令・契約上の要求の有無、事業継続への影響、対応コストの順で判断します。ここまでの結果がリスクアセスメント表として残ります。
ステップ6: リスク対応の4つの選択肢と附属書A管理策の選択
対応が必要と判断したリスクごとに、次の4つから方針を選びます。すべてを低減で埋める必要はなく、受容や移転を選んだ理由が記録されていることが重要です。
| 対応方針 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 低減(軽減) | 管理策を追加して発生可能性か影響度を下げる | アクセス権限の四半期棚卸しと多要素認証の導入 |
| 回避 | リスクの原因となる活動そのものをやめる | 業務上不要な個人データの保持をやめ、収集項目から削除 |
| 移転(共有) | 契約や保険で他者と分担する | サイバー保険への加入、委託契約へのセキュリティ要件の明記 |
| 受容(保有) | 基準内と判断してそのまま保持する | スコア2の社内資料の可用性低下をリスク所有者が承認 |
適用宣言書(SoA)とリスク対応計画
方針が決まったら必要な管理策を決定し、附属書Aの93管理策と照合して見落としがないかを確認します。そのうえで作るのが適用宣言書(SoA)です。適用する管理策とその根拠、実装状況、適用しない管理策の除外理由を記載します。「適用しない」と書くこと自体は問題ではなく、理由がアセスメント結果と整合していることが必要です。
- リスク対応の方針(低減・回避・移転・受容)をリスクごとに決定する
- 低減を選んだリスクについて、必要な管理策を具体的に決める
- 決めた管理策を附属書Aと照合し、見落とした領域がないか確認する
- 適用宣言書(SoA)に、適用する管理策・根拠・実装状況・除外理由を記載する
- リスク対応計画に、実施事項・責任者・期限・必要な資源を落とし込む
- 残留リスクを算定し、リスク対応計画とあわせてリスク所有者の承認を得る
残留リスクの承認と見直しの頻度
管理策を入れても残るリスクが残留リスクです。再評価して受容基準の範囲内であることを確認し、リスク所有者の承認を記録に残します。承認の記録がないまま運用に入るのは、指摘されやすい典型パターンです。見直しは年1回以上を計画的に行い、加えて新システムの導入、事業所の移転、重大なインシデント、委託先の変更時に再評価します。全体の工数感はISMS認証取得の費用で整理しています。
よくある失敗と実務のコツ
- 資産を挙げすぎる — ファイル単位で数百件を超えると、年1回の見直しが回らなくなります。システム・データベース・共有フォルダ単位に丸めるのが実務的です。
- 基準が曖昧でスコアがぶれる — 「影響度:中」の判断例を書いていないと、担当者が変わった翌年に同じ資産のスコアが変わります。基準書に判断例を必ず添えます。
- SoAとリスクアセスメント表の不整合 — SoAで「適用する」とした管理策が、対応計画のどのリスクにもひも付いていないケース。両者は相互参照できる形にします。
- リスク所有者が担当者になっている — 承認権限のない担当者を所有者にすると、残留リスクの承認が形骸化します。決裁できる役割を割り当てます。
台帳とマトリクスをツールで管理する
ここまでの成果物は、資産台帳・リスクアセスメント表・SoA・リスク対応計画の4つで、いずれも相互に参照し合います。Excelでも始められますが、資産が100件を超えると、台帳の更新がSoAに反映されない、同時編集で版が分かれる、評価をいつ誰が変えたか示せない、といった問題が出てきます。
4つを同じデータとしてつなぎ、変更履歴と承認記録が自動で残る形にしておくと、年1回の見直しが棚卸しではなく差分の確認で済みます。Riscala AI for ISMS はこの形の管理を提供します。まず自社がどのステップまで進んでいるかを確かめたい場合は、ISMS現在地セルフチェックから着手状況を整理してみてください。
よくある質問
- 資産ベースと事象ベース、どちらのアプローチを選ぶべきですか?
- ISO/IEC 27001:2022 はどちらかを指定していないため、組織が説明できる方法であれば問題ありません。〜100名規模では、資産ベースで網羅性を担保しつつ、ランサムウェアや委託先経由の漏えいなど影響の大きい事象をシナリオとして追加する併用型が扱いやすいです。資産台帳をすでに持っている組織は資産ベースから、クラウド中心で自社資産が少ない組織は事象ベースから始めると立ち上がりが早くなります。
- 情報資産は何件くらい挙げればよいですか?
- 規格に件数の定めはありません。実務の目安として、〜100名規模のIT企業であれば業務システム単位・データベース単位・共有フォルダ単位に丸めて50〜150件程度です。数百件を超えると年1回の見直しが現実的に回らなくなるため、件数が膨らんだ場合は粒度を上げて統合することを検討します。逆に10件程度に収まっている場合は、委託先や紙媒体、要員に関する資産が抜けていないか確認してください。
- リスクアセスメントはどのくらいの頻度で実施しますか?
- 箇条 8.2 は、あらかじめ定めた間隔で、また重大な変更が提案されたか発生した場合に実施することを求めています。実務では年1回の定期見直しを年間計画に組み込み、加えて新システムの導入、事業所や適用範囲の変更、重大なインシデントの発生、主要な委託先の変更があったときに、その範囲について随時再評価する運用が一般的です。
- Excelでリスクアセスメントを管理しても問題ありませんか?
- 規格上、形式の指定はないためExcelでも要求は満たせます。初回の取得時はExcelで始める組織が多数です。ただし資産が100件を超えると、資産台帳の更新が適用宣言書に反映されない、同時編集で版が分かれる、誰がいつ評価を変えたかの履歴が追えない、といった運用上の問題が出やすくなります。維持段階で工数が増えてきたタイミングが、ツールへの移行を検討する目安です。
- リスク対応で「受容」を選んでも審査で問題になりませんか?
- 問題ありません。箇条 6.1.3 は低減以外の選択肢も認めており、受容も正当な対応方針です。重要なのは、あらかじめ定めたリスク受容基準の範囲内であること、その判断の根拠が記録されていること、リスク所有者の承認が残っていることの3点です。基準を定めずに「対応しない」とだけ書かれている状態が指摘の対象になります。
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セルフチェックを始める本記事は一般的な情報提供を目的としており、審査結果や認証取得を保証するものではありません。制度・費用は変わることがあるため、最新情報は審査機関等でご確認ください。
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